「七重八重花は咲けども 山吹のひとつだになきぞかなしき」
              故事~太田道灌の話から~


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      ⦿  今朝の山吹。今、樹林は山吹が満開。

八重咲きの山吹を見たくて、今朝、近所の都立小宮公園を散歩。緊急事態宣言が発出されてからの10日あまりを振り返りながら、山吹の咲き乱れる雑木林を歩く。
自粛疲れも里山の空気に押し流されて解けるような清涼感がある。そして、目当ての場所に八重咲きの山吹を見つけた。

八重咲きの山吹には雄しべはあるけれど、雌しべは退化していて無い。一重は自生しているのだそうだが、受粉しない八重咲きはきっと人の手によって植えられたんだろう。

バラみたいな小さなつぼみ花弁が本当に可愛い。こんな可憐な木の花を独り占めできるのが嬉しい(笑)うっすらと後ろに写したのは一重の山吹。


ここで、冒頭の故事の由来を。おそらく太田道灌といえばこの話が最も有名だ。


あるとき城外に出ていた道灌は急な雨に見舞われた。

そこで雨具である蓑を借りようと、一軒の農家を訪れる。

「蓑を貸してくれ」と軒先で告げると、奥から少女が申し訳なさそうに

山吹の花を道灌の前にそっと差し出して、何も言わず引っ込んでしまった。

道灌はわけがわからず、また腹立たしくもあり、雨に打たれながら城に帰り、

この話を家臣にしたのだ。


するとその家臣は反論するかのように言った。

それは“七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞかなしき”という有名な和歌にかけて、

「申し訳ありませんが家が貧しく蓑(実の)一つさえ持ち合わせていません

ということを暗に申し上げたのでしょうと、答えたのだ。


これを聞いた道灌は、あの少女の言わんとしたことを理解できずに

腹を立てた自分の未熟さを大いに恥じ、以来和歌の勉強に一層励んだそうだ。


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